タリヘーレ四重奏団演奏会 in 東京 V

2011年4月3日午後4時30分開演
ムジカーザにて



プログラム

東京での演奏会第3弾です。「フランス近代音楽の響き」と銘打って、サン=サーンス、フォーレ、ショーソンの室内楽を演奏しました。タリヘーレ三重奏団のバイオリニスト(タリヘーレ四重奏団のビオリスト)が学部、大学院で音楽学を専攻し、フローラン・シュミットを卒論の対象として取り上げていました。そのことから、他のメンバーもフランス音楽になじむようになっていった次第です。

2年前の東京での演奏会Uでは、タリヘーレ四重奏団のバイオリニストが風邪で高熱の状態だったので、その報告で、「2年後に、また東京で演奏会Vを行う予定です。またお越しいただければ幸いです。なお、「その時は体調を万全にしておきます。今回は、失礼いたしました」(第一バイオリニスト)。」と最後に記しました。その2年後が今回の演奏会です。第一バイオリニストの体調は万全でしたが、チェリストが肩をこわし、上にあげることのできない状態(いわゆる50肩)になってしまいました。なかなか万全で臨むのは難しいものです。

東日本大震災

さらに今回は、東日本大震災が起こってまだ半月ばかりでした。東京でも震災の影響は色濃く残っており、余震もつづいていました。演奏を初めて2分ばかりのころに、小さな地震が起こったそうですが、演奏をしている我々は気付かない程度だったのが幸いでした。また、福島原発の崩壊に伴って東京への電力供給が大幅に減少し、東京は計画停電のまっ最中でした。ムジカーザがある渋谷区をはじめ23区はこの停電からは免れていましたが、節電のために、夜になると、街頭、店先の照明、ネオンなどが消え、薄暗い大都会となっていました。東北地方は、いまだに再出発の糸口さえ見えない状況で、東京での様々なイベントが自粛されている最中でしたが、それでも、次第に「明るくしよう」という方向性が表れてきたのか、被災地の避難所に芸能人も訪れるようになり、東京でのイベントもそろそろ「やろうではないか」という空気になってきたところでした。

ただ、原発事故による放射能漏れは続き、海外からは東京だけではなく日本全体が危ないと言われている中、アマチュアの演奏会に来ていただける人は少ないだろうということは想像に難くありませんでした。ムジカーザはもともと少人数の室内楽ホールですので、座席も50席ほどしか用意しませんでしたが、こんな大変な状況の中、それでも、40名ほどの方にお越しいただきました。これはうれしい誤算でした。本当にありがとうございました。

実は、私たち4人は16年前に、神戸で、阪神淡路大震災を経験しました。そして1月に地震が起こってから1カ月後に開催される、カザルスホールのアマチュア室内楽フェスティバルに出場が決まっていました。もちろんフェスティバルに出演する決意は固く、まだ電車が不通の状態の中、瓦礫を横目に見ながらまず大阪に出て1泊し、東京に向かいました。私たちはこのフェスティバルに出て、大いに勇気づけられました。16年後の今回も、場所は違いますが大地震の発生後の東京でも演奏会でした。

演奏曲目

演奏曲目は、フォーレの「ピアノ三重奏曲」からスタートしました。クラシック好きのインターネットの書き込みの中に、「フォーレのピアノ三重奏曲はロングトーンが多く、ユニゾンが多いので難しくはない」という一節を発見したときは、驚きでした。とんでもない。ロングトーンを聴かせるのが難しいのです。ユニゾンをまるで1本の音の様に演奏するのが難しいのです。フォーレのピアノトリオはアマチュアが演奏できるものではない、ということをつくづく感じながらの演奏でした。何年か前にこの曲をただ弾くだけで演奏会に載せていたときに比べると、その難しさ、怖さが十二分にわかってきた分、美しさもわかってきたとは思います。サン=サーンスのピアノ三重奏曲第2番は、フォーレのトリオに比べると、音が裸になることがなく、構成もがっちりしているので、「自分の裸の音におびえる」ことは少なかったのですが、とにかく難曲でした。全曲を演奏するのは2回目ですが、次に演奏することは、もう、ないかもしれません。この二つのピアノ三重奏曲に比べると、ショーソンのピアノ四重奏曲は、うまくできたかどうかは別にして、演奏していても楽しむことができました。こちらは、レパートリーにしていきたいと思っています。なおアンコールには、フォーレのピアノ四重奏曲第2番から第二楽章を演奏しました。

さて、東京での演奏会Wをどうするか、思案中です。

        
サン=サーンス ピアノ三重奏曲第2番ホ短調作品92                   ショーソン ピアノ四重奏曲イ長調作品30