タリヘーレ四重奏団演奏会 <パリからの風>



兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院ホール(小ホール)

 芸文の小ホールは、室内楽をする上では、兵庫県では一番響きの良いホールですが、なかなか倍率が高く希望の日時に取ることが難しいところです。1年前に開催される抽選会に、当楽団のバイオリニストが参戦し、良い順番を引き当てたことで、とにかくお盆の翌週の土曜日を確保することができました。私たちにとっては、2009年以来の芸文です。客席は400以上あるのですが、右端と左端、そして後ろの席を占めてもらって、正面の3ブロック、280名の席で演奏会に臨みました。マニアックな曲を並べたので、どのくらいの方が聴きに来てくださるのか大変心配でしたが、半券を数えると137名の方が来て下さったことがわかりました。本当にありがとうございました。

演奏曲目

 とりあげた作曲家は、デュボア、タイユフェール、そしてフォーレです。当楽団のピアニストが、「フォーレのピアノ五重奏曲第2番」をやりたい、ということからフランス近代音楽の特集を組もうということになりました。当初は、五重奏曲を2曲やろうかなどと言う案もありましたが、結局、三重奏曲、四重奏曲、五重奏曲を1曲づつすることで話をすすめました。フォーレのこの曲は、傑作として知られている曲で、フランス近代音楽史に燦然と輝く作品です。しかも20世紀に入ってから作曲された曲なので、それに合わせる形で他の曲を探しました。

 ピアノ三重奏曲は、タイユフェールにしようとすぐにきまりました。ビオリスト兼売りニストがその譜面をもっており、前にちょっと遊びでやってみて面白い曲だと言うことになったからです。でも、チェリストにとってはとても難しい曲で、とても苦労しました。タイユフェールは、フランス6人組の中の紅一点だったのですが、同じ6人組のプ―ランクは今日非常に高い評価を受け、オネゲルやミオーもそれに匹敵する位置にいるのですが、タイユフェールはそこまでに至っていません。ただ、遅まきながら、近年、再評価が進んでいると言われています。ピアノ三重奏曲は、全4楽章を通しても13分ほどの曲なのですが、フランスのエスプリに溢れた名曲だろうと思います。

 ピアノ四重奏曲にはいろいろと曲があったのですが、フォーレのピアノ四重奏曲やショーソンのピアノ四重奏曲はすでに演奏会でとりあげたので、別のものを探していました。タイユフェールとフォーレにつながる作曲家として浮かび上がったのがデュボアです。来日するフランスの室内楽団が、デュボアのピアノ四重奏曲をよくとりあげるので、記憶していました。デュボアは日本ではほとんど知られておらず、唯一、「ラヴェル事件」の関係者として知られているだけです。この「事件」は、既に名を上げていたラヴェルがローマ大賞を狙って作曲した曲を、当時パリ音楽院院長の職にあったデュボアを中心とした審査員が、予選で落してしまったという出来事です。これがロマン・ロランなどの知識人の反発をうけて大騒ぎになり、デュボアは音楽院院長を追われてしまいました。後任となったのがフォーレです。デュボアはサンサーンスの親友で、フォーレはサンサーンスの弟子で、三人とも国民音楽協会の創立に参加していたという関係です。タイユフェールはと言えば、フォーレの院長時代のパリ音楽院で学び、デュボアが反対したラヴェルの弟子にあたります。

 デュボアは保守派の頭の固い、新しい音楽が分からない人ように言われているわけですが、絵の世界でも実は同じように評価されてきた人々がいたわけです。19世紀末、モネやルノワールなどの印象派が台頭してきた時、そうした流れを阻止すべく古典的な美を追求していた人々がそれで、エコール・デ・ボザールを中心としたアカデミズムの画家と呼ばれてきました。彼らは、印象派の陰でほとんど知られることがなかったのですが、近年、再評価が著しいひとたちであり、ブグローなど高い評価を得ています。それと同じことが音楽でも起こってしかるべきでしょう。デュボアはアカデミズムの音楽家だったわけですが、その曲は、保守的ではあってもフランスの香りを漂わせたもので、特に、ピアノ四重奏曲はとても美しい曲だと思っています。

 

アンコール

 アンコールで、ショスタコーヴィッチのピアノ五重奏曲からスケルツォを演奏しました。演奏会に来てくれたフランス文化の研究者でチェリストの知人が、「ショスタコーヴィッチと比べるとよくわかるけど、デュボアもタイユフェールもフォーレも、本当にフランス的な曲だった」という感想を漏らしていました。フランス近代音楽の代表格であるフォーレはともかく、ほとんど知られていないデュボアの曲もタイユフェールの曲も「フランス的」に聞こえたのだと、自分勝手に解釈して、喜んだ次第でした。来年は、ドヴォルザークのピアノ五重奏曲を軸に、演奏会を考えています。


     
   タイユフェール  ピアノ三重奏曲          フォーレ  ピアノ五重奏曲第2番